質量分析イメージングにおけるマトリックス(イオン化補助剤)の役割を解説
目次
今回は質量分析イメージングを行う上で重要なマトリックス(イオン化補助剤)の役割を解説します。
マトリックス支援レーザー遊離イオン化(MALDI)法では、イオン化のためのマトリックスの選択が最も重要になります。
MALDI法を使ったMSイメージングでは、シナピン酸(SA)、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、α-シアノ-4-ヒドロキシけい皮酸(CHCA)、9-アミノアクリジン(9-AA)などがよく利用されます。(その他のマトリックスに関しては、島津製作所HPを参照のことMALDIPresentation (shimadzu.co.jp))
まず下記写真の通り、試料表面に対して、マトリックスの結晶を薄く均一に、手動(スプレー法)もしくは自動(蒸着法)で塗布します。
そして、マトリックスと試料を混ぜた後、レーザーを照射し、レーザーエネルギー伝達の仲介の役割を果たすマトリックスにより試料分子のイオン化が下記図の通り進みます。
ただし、共結晶の状態に左右されるため、繰り返しになりますが、マトリックスの選択は非常に重要となります。

このとき生じるイオンは主に[M+H]+、[M+Na]+、[M-H]- 等です。サンプルの種類によっては[M+]や[M-H]- も観測されます。また、MALDIで生じるイオンは多くの場合一価ですが、二価イオン([M+2H]2+)が生成される場合もあります。
弊社ではお客様のご要望に応じた様々な受託分析プランをご用意しております。是非お気軽にご相談くださいませ。

関連記事

質量分析イメージングは基本的には短時間で済み、抗体など高価な試薬などを必要としない技術です。しかし、そこには質量分析ならではの難しさもあります。今回は質量分析イメージングのメリットとデメリットを、染色など一般的なイメージング技術と比較しながら考えてみたいと思います。

質量分析イメージング (MSI) を用いた酵素活性可視化分析を紹介いたします。
質量分析イメージングは分子の種類や場所を直接分析できる技術です。近年これを利用して組織切片上の酵素活性を可視化する技術が開発され、応用分野が広がりつつあります。

今回は私共が受託分析サービスとして展開している神経伝達物質スキャンについて解説いたします。神経伝達物質とは、神経細胞の末端から放出されて他の神経細胞や筋肉などに作用する化学物質のことです。大変多くの種類あり、特に脳内の三大神経伝達物質としてセロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミンがよく知られています。最近ではGABAやグリシンなどのアミノ酸類もよく話題に上ります。

質量分析イメージング(MSI)では、まず組織の極薄切片を切り出し、スライドガラス上に貼り付けた後に、マトリックスと呼ばれるイオン化剤を塗布し 、サンプルを調製します。次に、サンプルを質量分析装置に導入後、一定の区切られた領域ごとにレーザー光を当て、その領域のマススペクトル(MS)取得を繰り返すことで切片中の指定したエリア全体のMS情報を得ます。そして最後に、それらのMS情報を分子イオンピークごとに解析することにより、ターゲットとする化合物の分布が得られます。今回はこの質量分析イメージングによりどのような事が分かるのか様々な事例とともに紹介いたします。

今回は食品等の評価に活用できる質量分析イメージングを用いた脂肪酸のイメージング例をご紹介いたします。