はじめに

質量分析を用いた分子可視化手法として「質量分析イメージング」が浸透しています。今回は、この分子イメージング手法の名称について解説したいと思います。

 

名称の誕生

大きく分けると以下の2種類になります。

1.    質量分析イメージング(MSI: massspectrometry imaging)

2.    イメージング質量分析(IMS: imaging massspectrometry)

この技術は1997年にVanderbiltUniversityのRichard M Caprioliのグループによって発表されました[1]。

この論文のタイトルには”molecular imaging”と”MALDI-TOF MS”というキーワードが入っており、明確にimaging massspectrometryやmass spectrometry imagingという用語は使われていません。しかし、本文中の見出しとして”MALDI MS imaging”という用語が採用されています。

この後、しばらくはMSIという用語が用いられています[2]。IMSという用語が表舞台に立ったのは恐らくNature Medicineの論文からだと思います[3]。この論文は世界で初めて脳腫瘍でのタンパク質イメージングをおこなった論文になります。

なお、余談ですが最初に報告された論文は文献1ですが、その前年にアメリカ質量分析学会年会においてドイツのBernhard Spengler博士(現Giessen University教授)によりMSIに関する最初の報告が行われました。

 

様々な名称

これ以降、MSIとIMSが混在する状況になります(現在も同じ状況)。また、ここで挙げた以外にも、mass spectrometric imagingなどの用語も誕生しては消え、現在はMSIとIMS両方の用語が用いられています。

面白いことに、これら用語の使用にはある傾向があると感じています。

それは、アメリカのグループから出版される論文ではIMSが用いられ、ヨーロッパのグループから出版される論文ではMSIが用いられるというものです。実際、マスイメージングの学術団体としても

1.    Imaging mass spectrometry society(IMSS): 米国

2.    Mass spectrometry imagingsociety(MSIS):ヨーロッパ

が存在します(非常に紛らわしい)。なお、2023年にこれら2つの団体は統合される予定です。どのような名称になるのか注目したいと思います。

 

個人的な見解

弊社では略語としてMSI(日本語ではマスイメージングや質量分析イメージング)を使用および推奨しています。これには明確な理由があります。

近年、IMSという略称で用いられるイオンモビリティスペクトロメトリー(ion mobilityspectrometry)がマスイメージングと組み合わせて用いられています。すなわちIMSは2つの異なる分析手法を表すことになり、非常に曖昧な略語であると考えています。

このような理由から、弊社では「質量分析イメージング」ならびに“MSI”を使用していきたいと考えています。

 

参考文献

1.    https://doi: 10.1021/ac970888i

2.    https://doi.org/10.1016/S1044-0305(98)00126-3

3.    https://doi: 10.1038/86573