1.概要

弊社はカーディナルヘルス株式会社と共同で「質量分析イメージングによる手術用手袋にコーティングされた保湿成分の人工膜への浸透評価法の開発」についての論文を発表致しました。手術用手袋の装着による皮膚の問題(乾燥、皮膚炎、危険物質への暴露など)に対して、肌の保護や保湿などの工夫を行った多種多様な手術用手袋が各メーカーから販売され、臨床試験での評価はされていますが、実際の皮膚中の分布はわかっていません。

本論文は、初めて質量分析イメージングを用いて生体試料以外から組織への浸透評価を実施いたしました。近年の動物実験代替法の開発や倫理的配慮の必要性が強調される状況から、動物実験に頼らない人工膜を使用した評価法の検討を行い、我々の試験法で手術用手袋の保湿成分が人工膜中に浸透する様子を可視化することに成功しました。この結果から、手術用手袋の保湿成分は皮膚の角層から内側へ浸透していくことがわかりました。

詳しくは下記論文をご確認ください。

論文詳細: https://www.jstage.jst.go.jp/article/massspectrometry/13/1/13_A0145/_article/-char/en

2.質量分析イメージングの紹介

質量分析イメージング (mass spectrometry imaging) は質量分析による試料表面成分の可視化技術で、生体内の現象や動態を可視化したい際に有効な方法の1つです。採取したサンプル(臨床検体、動物組織、植物、食品、昆虫など)から新鮮凍結切片を作製し、イオン化に必要なマトリックスを供給後、位置情報を記録した切片上の測定点にレーザーを照射することでイオン化を行います。イオン化により取得したマススペクトルから目的のピークを選択し、測定点ごとのピーク強度をイメージング画像として出力しています。イメージングの対象は、薬剤、内因性代謝物、エイジングケア有効成分、農薬、機能性食品成分、酵素活性など多岐にわたります。

弊社で使用しているiMScope TRIO (島津製作所)は顕微鏡と質量分析計が一体化した装置で、顕微鏡画像(位置情報)とイメージング画像を完全に一致させることができる他のメーカーにはない特徴を持っています。

 

3.展望

 今回発表した「質量分析イメージングを用いた人工膜を用いたin vivo浸透評価法」は、有効成分を含む生体試料以外のサンプルからの浸透評価が可能であることを示しました。

手術用手袋の他にフェイスパックや湿布剤からの保湿剤や有効成分、有害成分の浸透評価への利用も考えられ、今後、さらに質量分析イメージングが化粧品や製薬分野など幅広い分野で活用されることを期待しています。

 

4.まとめ

質量分析イメージングによる有効成分の浸透評価は、製品の機能性を示すインパクトのあるデータの1つとなります。有効成分と一緒に含まれる浸透促進剤により、分析が難しく、前処理に工夫が必要な場合が多くあります。弊社では「見えないものを見る」ために質量分析イメージングの技術開発に積極的に取り組んでおりますので、お気軽にご相談ください。