はじめに

質量分析イメージング(MassSpectrometry Imaging :MSI)は、試料表面上に存在する分子をイオン化・質量分析することで、その分布を可視化する技術です。MSIの代表的なイオン化法としてMALDI、SIMS、DESIが利用されており、可視化する試料や分子、解析目的に適したイオン化法を選択することが、正確で良好な結果の取得に重要です。

MALDIによるイオン化の原理と適応性

マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted LaserDesorption/Ionization :MALDI)法は、マトリックス(イオン化補助剤)と混合した試料に紫外線レーザーを照射し、そのエネルギーを吸収して励起したマトリックスが、気化した試料分子へ電荷を授受する方法です。

試料分子の開裂を抑制できるソフトなイオン化法のため、高分子を含む幅広い領域の測定が可能です。一方で、マトリックスを使用するため、低分子側(m/z<500)でマトリックスによるピーク妨害が問題となることがあります。

代謝物や生体分子に高い適応性を示し、バイオマーカー研究や薬物代謝など医学・製剤分野で利用されています。

SIMSによるイオン化の原理と適応性

二次イオン質量分析(SecondaryIon Mass Spectrometry :SIMS)法は、試料表面に一次イオン(金属イオン)を照射し、試料構成分子を放出させる(スパッタリング現象)方法です。

試料表面分析では最も高い空間分解能および感度を誇るため、高精細なイメージングが可能です。有機分子ではイオン化効率が悪いため、生体分子の測定には不向きですが、SIMSは無機材料に、TOF-SIMSでは無機、高分子、有機材料に適応性を示し、金属、半導体、ガラス、ポリマー測定など理学・工学分野で利用されています。

DESIによるイオン化の原理と適応性

脱離エレクトロスプレーイオン化(Desorptionelectrospray ionization :DESI)法は、エレクトロスプレーで生じた帯電液滴を噴霧し、試料成分を抽出・脱離・イオン化する方法です。

特別な前処理が不要なため、バックグラントシグナルが少なく、また他のイオン化法に比べて試料の破壊が少ないため、繰り返し測定が可能です。MALDIに比べると空間分解能が低く、試料夾雑物の影響を受けやすいですが、プラスチックやゴムのような不活性物質や高分子、極性化合物など幅広い試料に適応性を示すため、材料や生物、食品分析などで利用されています。

まとめ

それぞれの特徴を表にまとめると下記のようになります。

MALDI, SIMS, DESI 比較表
MALDI SIMS DESI
・高い空間分解能(2 µm)
・分子の分解が少ない
・幅広い測定領域
・分析時間が短い
・生体分子に高い適応性を示す
・最も高い空間分解能(100 nm)
・感度が高い(ppm~ppb)
・前処理が不要
・元素に高い適応性を示す
・前処理が不要
・バックグランドピークが少ない
・試料の破壊が少ない
・不活性物質、生物試料などに適応性を示す
・マトリックスによるピーク妨害
・定量の再現性が低い
・過剰な断片化
・生体分子では低感度
・再現性が低い
・空間分解能が低い(10 µm)
・夾雑物の影響を受けやすい

近年ではイオン化法を組み合わせて、それぞれの短所を補完する方法・装置も開発されています。弊社では主にMALDI法を利用していますが、有機材料であるグリセロールや無機材料であるニトリルグローブなども測定可能です。

また、弊社使用装置iMScopeTMTRIO (島津製作所)は大気圧下でイオン化が可能なため、試料やマトリックスの揮発を抑えることができます。さらに顕微鏡下で測定を行うため、観察(光学)画像とMSI画像が完全に一致し、高解像度の測定においても正確な位置情報を維持することが可能です。

 

皆様の「みたい」がMSI技術の進歩につながっていますので、まずはご相談ください!