はじめに

MSイメージングを用いた分析対象として、がんは非常に多くの注目を集めています。これまでリン脂質を対象とした解析結果が多く報告されてきましたが[1]、近年低分子代謝物、特にアミノ酸も含めた解析が報告されています。

がんにおけるMSイメージング分析

臨床検体を用いてリン脂質のMSイメージングを行なった例は文献1がよく知られています。この論文では、大腸がんにおけるリン脂質の異常蓄積を網羅的に解析した最初の事例です。その中でも特に、スフィンゴリン脂質であるSM(16:0, d18:1)ががん部で蓄積し、m/z 616として検出されたHeme Bが癌の外側で蓄積していることを報告しています。

この論文ではm/z 616の同定は行われていませんが、この後に出版された文献2において構造解析結果が報告されています。、現在でも多く引用されています。2000年代中頃は、装置の性能や試料前処理法の知識が乏しかったことから、組織中に高濃度で含まれ、かつイオン化しやすい極性基を持つリン脂質がターゲットとなることが多かったです。その後、測定対象が低分子代謝物やアミノ酸へも広がりを見せています。

新たな解析対象としてのスフェロイド

近年、人臨床検体や動物検体のみならず人工的に作られた組織(スフェロイド)および臓器(オルガノイド)を用いた研究も報告されています。文献3では癌のスフェロイドを用いた解析結果が報告されており、検出されている分子もリン脂質のみならずグルタミン、グルタミン酸、チロシンの分布も報告されています。スフェロイドは非常に小さな細胞塊ですが(直径1mm程度)、リン脂質やアミノ酸はそれぞれ特徴的な分布を示すことが報告されています。特に、細胞塊の表面と内部では酸素濃度が異なることから”hypoxia”と”がん”を絡めた解析が可能であると考えられます。すなわち、癌の微小環境における解析手法としてMSイメージングが活用できる可能性があります。

まとめ

がん組織解析とMSイメージングの融合は今後さらに発展すると考えられます。また、本コラムで触れたように癌のスフェロイドを用いた微小環境解析への応用も今後注目を集めるものと思います。株式会社ミルイオンでは、スフェロイドなどの微小な検体を用いたMSイメージングにも対応可能です。

参考文献

1.    https://doi.org/10.1016/j.jchromb.2007.02.037

2.    https://doi.org/10.5702/massspec.55.145

3.    https://doi.org/10.1016/j.aca.2021.338342