はじめに

がんは、現在日本人の二人に一人が罹患すると報告されており[1]、非常に身近な病気として知られています。がんは、現在さまざまなアプローチで研究が進められており、その中でもがんを「代謝異常」と捉えて、がん内部の代謝物(メタボローム)を解析する手法も一般的になりつつあります。このメタボローム解析では、通常大きく分けて

1.    試料の粉砕

2.    粉砕物からの代謝物抽出

3.    抽出物の精製

4.    液体クロマトグラフィ質量分析(LC-MS)による分析

という工程をたどります。得られた代謝物の分析結果からグルコースをもとにした「解糖系」や「クエン酸回路」および、ストレスを受けたがん細胞において「ペントースリン酸回路」が重要な役割を果たす[2]など様々な回路に関与する代謝物の量比に関する情報を得ることが可能です。すでに、弊社コラム「メタボローム分析と質量分析イメージングの融合」[3]で紹介しましたが、既存のLC-MSによる分析では組織内部での代謝物に関する「空間情報」が失われます。すなわち、キーとなる代謝物、例えばグルコースやピルビン酸、エネルギー通貨であるアデノシン三リン酸(ATP)などを始めとする高エネルギーリン酸結合を有する代謝物がどこに分布しているかはわかりません。

がん研究におけるマスイメージング(mass spectrometry imaging:MSI)

がん組織はさまざまな細胞が入り乱れており組織学的にも極めて複雑です。これをがんの”heterogeneity(多様性)”といいます。このような組織を正確に分析しようと考えた場合、がん組織そのものを粉砕し、抽出を行うことで多様性が平均化されてしまいます。これを避けるために、レーザーマイクロダイセクションとして知られている手法を用いることがあります。すなわち、レーザーを用いて組織の一部を切り出し分析に供するという方法です。しかし、がんが微細な構造を持つ場合、例えば間質が非常に細かく入り組んでいる膵臓がんなどに適用することは難しいと思います。このような、技術的な困難を克服する手法として、組織表面で分析を行うマスイメージングは非常に強力なツールになると考えられます。

がん組織分析におけるMSI例

以下の図ではマウス腫瘍組織を用いた代謝物のMSI結果をヘマトキシリンンエオシン染色(HE染色)結果と共に示しました。

がん組織マスイメージング分析例

HE染色像を見ると下部にがん細胞が密集した箇所と間質が見られます。また上方には壊死部が観察されています。このような組織の中でMSIを実施し代謝物を可視化すると、がん部や間質の中でも特徴的な分布を示す代謝物が検出されます。また、壊死部に特異的に蓄積する代謝物も可視化されました。これ以外にも様々な分子が検出されており、それらをまとめて多変量解析をした上で組織上に特徴料としてマッピングすることも可能です。このような、解析手法をセグメンテーションといい、近年MSIにおける一般的な解析手法として知られています。

まとめ

がん組織解析におけるMSIの利用は、近年最も報告されている研究内容の一つです。今後、画像解像度が向上することにより、「がんとその境界」での解析も一般的に行われるようになるかもしれません。また、「細胞の老化」が発がんと関連することも報告されています。このように、「細胞の老化研究」へも今後MSIが活用できるかもしれません。株式会社ミルイオンでは、「がん研究」や「老化研究」を行っている研究者の皆様へ最新の解析方法を提供していきます。ご興味がありましたら、お気軽に弊社担当までお問い合わせください。

 

参考文献

1.    https://ganjoho.jp/public/knowledge/basic/index.html(2022年7月19日最終閲覧)

2.    https://www.jst.go.jp/pr/announce/20140317-2/index.html(2022年7月19日最終閲覧)

3.    https://www.miruion.com/post/msimagingblog9(2022年7月19日最終閲覧)